認知心理学 — 記憶・注意・思考のしくみ
認知心理学の誕生
1960年代の「認知革命」— 刺激と反応だけを扱っていた行動主義心理学から離れ、記憶・思考・言語・問題解決といった内的な精神過程を科学的に研究する流れが始まりました。
中心的な比喩: 人の心 = 情報処理システム
入力 → 処理 → 出力
記憶の構造 — アトキンソン-シフリンモデル
「多重貯蔵モデル」と呼ばれるものは、正確にはアトキンソン-シフリンモデル(Atkinson–Shiffrin model)です。 1968年にリチャード・アトキンソン(Richard C. Atkinson)とリチャード・シフリン(Richard Shiffrin)が提唱したもので、 記憶を感覚記憶 → 短期記憶 → 長期記憶という3つの貯蔵庫に分けて説明します。 情報はひとりでに次の段階へ進むわけではなく、注意を向けられて初めて短期記憶へ、リハーサルと符号化を経て初めて長期記憶へ移ります。
感覚記憶 (Sensory Memory):
→ 保持時間: 0.5〜3秒
→ 容量: 非常に大きいが急速に失われる
→ 視覚: アイコニックメモリ / 聴覚: エコイックメモリ
短期記憶 (Short-Term Memory):
→ 保持時間: 15〜30秒(リハーサルがなければ)
→ 容量: 7±2チャンク(ミラーの法則)
→ 注意を向けられた情報だけが入ってくる
長期記憶 (Long-Term Memory):
→ 保持時間: ほぼ無制限
→ 容量: 事実上、無制限
→ 宣言的記憶と手続き記憶に分けられる
ワーキングメモリ — バドリーモデル
短期記憶をより精緻に捉えたモデルです。
先に見たアトキンソン-シフリンモデルは情報が一方向に流れる単純な直列モデルであるため、 短期記憶のなかで情報を保持しながら操作する過程までは説明できません。バドリーモデルはその限界を補います。
中央実行系 (Central Executive):
→ 注意の制御、方略の選択、計画
音韻ループ (Phonological Loop):
→ 言語情報の処理
→ 「頭のなかの声」
視空間スケッチパッド (Visuospatial Sketchpad):
→ 視覚・空間情報の処理
→ 心的地図、イメージの回転
エピソードバッファ (Episodic Buffer):
→ 長期記憶との接続
→ ワーキングメモリの容量は、知能や学習能力と密接に関係する
長期記憶の分類
宣言的記憶(顕在記憶):
意味記憶: 世界についての知識(「パリはフランスの首都」)
エピソード記憶: 個人的な経験(「去年の誕生日会」)
手続き記憶(潜在記憶):
技能・習慣: 自転車に乗る、タイピングする
プライミング効果: 以前の経験が無意識のうちに後の反応に影響する
忘却の原因
減衰説: 使わなければ記憶痕跡が弱まる
干渉説:
- 順向干渉: 以前の学習が新しい学習を妨げる
(英語を学んだあと、中国語を学ぶときに英語が邪魔をする)
- 逆向干渉: 新しい学習が以前の記憶を妨げる
検索失敗: 記憶はあるのに手がかりがなく思い出せない
→ 舌先現象(のどまで出かかっている状態)
エビングハウスの忘却曲線:
学習の20分後 → 42%を保持
1時間後 → 56%を忘却
1日後 → 67%を忘却
→ 分散学習(間隔をあけた反復)が効果的
注意 — 選ぶことと集中すること
選択的注意:
カクテルパーティー効果 — 騒がしい場でも自分の名前は聞こえる
二重過程理論:
システム1: 速く、自動的・直観的(無意識)
システム2: 遅く、意識的・論理的(意識的な努力を要する)
→ 日常の判断のほとんどはシステム1が担っている
非注意性盲目 (Inattentional Blindness):
ゴリラ実験 — 注意を向けていなければ、目の前のものも見えない
認知バイアスと意思決定
カーネマンとトベルスキーの研究より。
利用可能性ヒューリスティック:
→ 思い出しやすいものほど、よくあることだと判断する
→ 飛行機事故 vs 自動車事故 — 飛行機のほうが怖いが、実際は自動車のほうが危険
代表性ヒューリスティック:
→ 典型的なイメージに合うと確率が高いと判断する
→ 基準率を無視してしまう
確証バイアス:
→ 自分の信念を裏づける情報ばかり集める
→ 反証する情報は無視する
損失回避:
→ 100万円を得る喜び < 100万円を失う苦痛(およそ2.5倍)
問題解決と創造性
問題解決の方略:
アルゴリズム: 体系的で確実(時間がかかる)
ヒューリスティック: 速いが誤りうる
洞察 (Insight):
→ 突然おとずれる「あっ!」という体験
→ 情報の再構造化
創造性の4P:
Person(創造的な個人)
Process(創造的な過程)
Press(創造的な環境)
Product(創造的な成果)
覚えておきたい要点
記憶の構造: 感覚記憶(秒)→ 短期記憶(30秒、7±2)→ 長期記憶(無制限) ワーキングメモリ: 中央実行系 + 音韻ループ + 視空間スケッチパッド 忘却: 減衰・干渉・検索失敗 — 分散学習で乗り越える システム1(直観・速い) vs システム2(論理・遅い) — バイアスはシステム1で生じる
Oiyo
編集部OIYO編集部は、経済・法律・生活・自己理解のテーマを一次資料と公開統計で検証してまとめます。すべての記事は出典を明記し、定期的に見直して正確さと実用性を保ちます。